キム・ギドク監督の最新作です。
とても良かったです。

北朝鮮の寒村で、妻子と共に貧しくも平穏な日々を送る漁師ナム・チョル。
ある朝、いつものように小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まりボートが故障。
ナム・チョルは意に反して、韓国側に流されてしまう。
韓国の警察に拘束された彼は、身に覚えのないスパイ容疑で尋問を受けることに・・・。

ナム・チョルを担当する取調官は朝鮮戦争で家族を亡くしており、復讐心と偏見に満ち、最初からスパイと決めつけて執拗で残酷な尋問を行うのですね。
でも上司が冷静な人で、ナム・チョルがスパイだという証拠が無いということで、今度は亡命を説得しようとします。

ここなのですよ。
北風と太陽のように正反対な行為ですが、徐々に根は同じに思えてきます。

ナム・チョルにずっと付いている青年警護官オ・ジヌは、彼がどれだけ家族のことを心配しているのかを知っているので、彼を北朝鮮に帰してあげるよう上司に頼みますが、上司は「あんな独裁国家に帰す訳にはいかない」と主張。
亡命者として韓国で暮らすことが幸せで、北朝鮮に帰ることは不幸と決めつけています。

ナム・チョルは聞きます。
「北朝鮮に行ったことはあるのですか?無いのにどうして不幸と決めつけるのですか?」
でも上司はそれを洗脳だと言い、実際に見てみれば気が変わるに違いないと、彼を明洞(繁華街)に放り出すという手段に出ます。

繁華街を彷徨ったナム・チョルは、男たちに追われる一人の娼婦を助けます。
家族を養うため身体を売っている彼女は「死にたい」と漏らします。
ナム・チョルは聞きます。
「なぜ自由な国で死にたいのですか?」

戻ってきたナム・チョルは、オ・ジヌに尋ねます。
「なぜあんなに顔も心も綺麗な女性が、身体を売らなければならないのですか?」
「なぜまだ使える物を捨てるのですか?」
「なぜ食べ物を捨てるのですか?」

上司はナム・チョルを洗脳で善悪の区別がついていないと言いますが、
誰が善で誰が悪なのか。
何が幸せで何が不幸なのか。
価値観が揺さぶられていきます。

その後の展開とナム・チョルの選択は、ぜひ劇場で。

観終わって余韻に浸ると言うか、引きずると言うか、色々な人に話したくなると言うか。
とても心に残る映画でした。


4.5点
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