吉田修一さんの作品は全て読んでいて、ベスト3を挙げろと言われれば、『太陽は動かない』シリーズ、『悪人』、『怒り』なのですが、『横道世之介』も捨てがたい。

今回は、24歳の世之介の一年間を描いています。
留年した為にバブル最後の売り手市場に乗り遅れ、就職出来ず、バイトとパチンコで食いつなぐ日々。
そんな世之介と、世之介と人生のひと時を共にした女友達、大学時代の親友、そして恋人とその息子。
彼らのなんてことの無い日常を描いているのですが、吉田さんの描写が本当に素晴らしく、彼らがどこかに生きている気がしてきます。

そして、合間合間に、フラッシュバックではなく、フラッシュフォワードのように、世之介と関わった人々の27年後が描かれるのですが、意外な展開に驚くとともに、あぁ、未来は誰にも分からないものだなと希望が持てます。

とにかく世之介が愛すべき男で。
走り続けて息切れしてスローダウンした時に、そっと並走してくれるのが世之介なのです。
どうか、奇跡のように善良なこの男が、幸せになりますようにと祈らずにはいられません。

ていうか、善良な人間が損をするこの世の中って、一体誰が作ったんだろうと呆然とします。