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カテゴリ:本(日本人作家) > 桐野夏生

桐野さんは大好きな作家さんなのですが、本作は満足度が低かったなぁ。
ページ数が少なく、文字は大きく、30分位で読み終わってしまった。
短編集なのだけど、連作という訳ではなく、バラバラに発表した短編を、強引に〈もっと悪い妻〉というタイトルで括った気がする…。
どれもオチも弱かった…。

西加奈子さんの推薦文は秀逸。
不幸な「悪い妻」は許されるが、
満たされた「もっと悪い妻」は断罪される。

大した稼ぎも無いくせに、家事や育児を全くしないろくでもない夫が登場します。
夫より稼げば良いんですよ。
そうすれば、「俺より稼いでから言え」なんて言われることもないし、なんならそんな夫、いつでも切り捨てられる。

桐野夏生さんが描く「バブル」小説です。
上下巻!

1986年春。二人の女が福岡の証券会社で出会った。
一人は短大卒の小島佳那、もう一人は高卒の伊東水矢子。
貧しい家庭に生まれ育った二人は、それぞれ2年後に東京に出ていく夢を温めていた。
野心を隠さず、なりふり構わずふるまう同期、望月昭平に見込まれた佳那は、ある出来事を契機に彼と結託し、マネーゲームの渦に身を投じていく。

地方出身の学歴も金も無い昭平が、口八丁手八丁で伸し上がっていくのですが、やり過ぎちゃうんですよね…。

圧倒的なリーダビリティ。
桐野さんの小説はリーダビリティはあるけど、尻切れに終わることが結構あるのですが、本作は描き切っている。

ただし予想通りの展開で、読んでいて辛いけど。
私、主人公が辛い目に遭う話が苦手で。
『フランダースの犬』と『ダンサー・イン・ザ・ダーク』がツートップで無理…。

そして桐野さんがすごいのが、読者に媚びない。
登場人物がいつも一人も好きになれない(笑)
読者に好かれようと思っていないところが潔い。

桐野さんは一貫してディストピア小説を書いていて、そこが好きなのですが、今回のテーマは「代理母」。

北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

桐野さんの著作は全て読んでいるのですが、今気付いたのだけど、登場人物全員好きになれない。
圧倒的好感度の低さ。読者に好かれようと全く思っていない潔さ。
だけど、それを上回りお釣りがくる程の圧倒的リーダビリティ。

本作も、リキに全く同情できなかった。
契約とか仕事とかに対して無責任すぎてイライラする。
自己責任と言うと非道に聞こえるかもしれないけれど、でもまぁ、全てを社会のせいには出来ないでしょうと私は思ってしまう。
でもまぁ、そういう愚かな選択をしてしまうのも、育った環境が原因と人権派は反論するのでしょう。

桐野さんは一体どう思っているのだろう。
全面的にリキに同情しているとは思えないのだよな。
もっとフラットというか。

それにしてもラスト驚いた。
桐野さんはいつも、え!ここで終わり!?という締め方をするのですが、今回もそうなのですが、でもそう来るとは全く想像もつかなかった。

タイトルはゴヤの絵画から来ているようです。
悪意にあらがうことへの無力さを描いているという説があるそうです。

ハードな小説でした。
ネグレクト、貧困、虐待をテーマにしています。

小学校にも通わせてもらえず、日々の食事もままならない優真。
同棲相手の男と遊び惚け、子供を放置して頻繁に家を空ける亜紀。
優真に手を差し伸べるコンビニ店主。

3人の視点で描かれていきます。

コンビニ店主の通報により、優真は救出され、施設で暮らすことになります。
さらに、コンビニ店主夫妻が優真の里親になってくれます。

優真は里親の愛情に触れ、幸せに暮らしましたとならないのが桐野小説のリアリズムです。

三つ子の魂百までと言いますが、幼少期の人格形成って本当に重要なのだろうね。
優真はずっと誰からも思いやられてこなかったから、相手を思いやるということがどういうことなのか分からないのですよ。
更生と言えば良いのか、修復と言えば良いのか、なかなか難しいのだろうと思う。

そしてラスト。
私は桐野作品を全て読んでいるからおなじみですが、え!ここで終わり!?といういつものアレ。
賛否両論(否の方が多そう)ですね・・・。

また桐野さんがぶっ飛んだ小説書いたなぁ。
こんな身近ではないネタをどこで思いつくのだろう…。

何の取り柄もない会社員の八目晃にとって、唯一の誇りは、高校時代に皆の憧れの的だった野々宮空知と友人だったことだ。
だが大学進学後、徐々に空知とは疎遠になってしまう。
空知の父親の葬儀で、空知がカンボジアに行った後、消息を絶ったと知らされる。
更には、空知の姉も妹も海外に行ったきり、行方不明なのだという。

晃は空知の姉の元夫という安井に依頼され、カンボジアに空知を探しに行きます。

この晃というのが、本当にダメダメで。
カンボジアに行ってすぐに現金30万円を盗まれたり、色々な人に騙されまくったりするのですよ。
(私なんて、小学校6年生で、一人で金浦空港から愛知県幡豆郡の祖母宅まで移動していたからね。)

その辺はイライラするのですが、空知達の生い立ちが分かってからは、俄然興味が。
やはり桐野さんはリーダビリティが半端ない。
まさかポル・ポト政権や内戦の話に繋がっていくとは。

桐野さんの小説は、え!ここで終わり!?と、ラストがぶった切られることが多いのですが、今回は締まってはいるけれど、驚きの結末でしたね。

桐野さんが描くディストピア小説。

小説家・マッツ夢井に「文化文芸倫理向上委員会」から召喚状が届く。
出頭したマッツは断崖に建つ海辺の療養所に収容され更生を命じられる。

例えば不倫をテーマにした小説があるとして、作者が不倫を肯定しているとは限らないのに、不倫は社会悪なのだから不倫をテーマにするなんて許せない!と叩くみたいなことなのです。
確かにレビュー等を読んでいても読解力が全くない人っていますよね・・・。

リーダビリティがあり一気読みしました。

所長に盾突いて減点食らって収容期間がどんどん延びるマッツの要領の悪さに歯ぎしりしたくなりますが、要領よく更生したフリするような主人公だったら小説にならないもんね。

塩崎早樹は相模湾を望む超高級住宅地「母衣山庭園住宅」で30歳上の資産家の夫と穏やかに暮らしていた。だが、早樹には8年前に当時の夫が海釣りに出たまま行方不明になるという過去があった。
そして1本の電話が早樹の平穏な生活を乱し始める。それは元義母からの「息子を見た」という報告だった。

夫はどこかで生きているのか、死んでいるのか。
死んだとしたら事故なのか、まさか自殺か。
自殺だとしたら何に悩んでいたのか。

そんなループから離れ、ようやく夫の死を受け入れ、新たな人生を送り始めたのに、元夫の目撃情報が入る。
早樹は元夫の友人達を訪ね、元夫の足取りを掴もうとします。
彼らから知らなかった事実を知らされ心がかき乱され、さらに現在の夫の次女(早樹と同い年)との不和という問題も起こります。

何かすごく大きなことが起きるというよりは、早樹の心情をひたすらえぐる小説で、続きが気になりつつも、読んでいてかなり重い気持ちになります。
桐野さんの感情描写はリアルでヒリヒリしますね。

元夫が生きていたのかどうか。
ぜひ実際に読んでみてください。



『ハピネス』の続編で、同じく「VERY」で連載されていたものです。
湾岸(豊洲)のタワーマンションを舞台にママカーストを描いた『ハピネス』。
今回はママ不倫がテーマで、洋子に続いて、有紗も同じマンションに住むパパによろめいていきます。
桐野さんって凄いよね。「VERY」の読者にもレベルを合わせられるんだもんね。(嫌味に読めたらすみません。)
いつもの桐野さんの筆圧を考えると、ちょっと物足りない感もありますが、さすが桐野さん、読ませる力がありますね。
2~3時間で一気読みしました。
ちなみに舞台となるツインタワーのマンションは、豊洲に実在する住友不動産のマンションがモデルになっています。スーパーあおきも出てきて、元豊洲住民としては懐かしい。

桐野さんの最新刊です。

ネグレクトにより路上生活を余儀なくされてしまった女子高生達の話です。
(高校は通えなくなってしまっているので、もはや女子高生ですらない…。)

最近、「アンナチュラル#4」「祈りの幕が下りる時」「スリー・ビルボード」と、親の子を想う気持ちで山をも動かせるのではないかと思ったのですが、そうだよね、親が全員そういう訳じゃないから、悲惨な事件が後を絶たないのだよね。

真由・リオナ・ミト。
三人の女の子達に置かれている環境の過酷さ、親のろくでもなさ、読んでいて胸が苦しくなりました。

真由の自分勝手さに読んでいてイライラしてきます。
(桐野さんの書く主人公って、自分勝手なことが多いことに気付く。)
でも人間って大抵は心の中は自分勝手なもので、それをオンにしているかどうかかもしれないですね。

最近の桐野さんの小説って、このテーマを書きたい!というエネルギーは伝わるのだけど、最後まで持続しないというか、まとまりきらないというか、ラストが尻切れトンボになることが多かったのだけど、本作は最後まで書ききった感があります。
ただ、似たようなテーマですと、同じく朝日新聞出版から刊行されている『メタボラ』の方がインパクトありました。


桐野さんの新刊です。

谷崎潤一郎、その妻の松子、松子の妹の重子、重子の息子の嫁の千萬子。
重子の視点で、谷崎潤一郎をめぐる四角関係が描かれています。

谷崎潤一郎の作品は、全てが私小説とまでは言わないものの、常に身近な女性がモデルになっています。
せめて谷崎潤一郎の代表作である『細雪』くらいは読んでいないと、面白くないかと。
『細雪』のモデルが、重子たち四姉妹であることは知っていたのですが、『鍵』の敏子と『瘋癲老人日記』の颯子のモデルは千萬子だったのか。

この千萬子が本当に嫌な女で、私が松子だったら、発狂していたかも・・・。
谷崎が自分に惹かれていることを利用し、取り入り、虜にし、あらゆる高級品を買ってもらい、生活費をもらい、ついには家まで建ててもらっちゃう。
他人事ながら、歯ぎしりしそうになりながら読みました。

それにしても、やはり、谷崎潤一郎って、変態だったのだなぁ・・・。
『鍵』を読んだ時に、変態!?と思ったのですが、実生活もそうだったのね。
(『鍵』のあらすじを書くのは憚れるので、ネットで調べてみて下さい。)

お母さんではなく女でいて欲しいと、松子が妊娠したら堕胎させたり。
前妻・千代子に対してもひどかった。
千代子の妹であるせい子(『痴人の愛』のモデル)を好きになってしまい、友人に千代子を譲渡したり(後に撤回)。

・・・この人、文壇では尊敬されていたのかしら??

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